ARMがハイエンドGPUを重視する理由は VRとディープラーニング

2015年12月05日 10:48
Hurley氏によるCPU IPコアの説明に続いては,GPU IPコアであるMaliシリーズの最新事情が説明された。担当したのは,ARMのSteve Steele(スティーブ・スティール)氏である。
 
 Steele氏が重点を置いて説明したのは,発表されたばかりのMali-470ではなく,2015年2月に発表されたハイエンドGPU IPコアである「Mali-T880」のほうだ。
 Steel氏は,Mali-T880が「極めて高い性能を持つGPUである」と強調し,既存のハイエンドGPU IPコアである「Mali-T760」に対して,最大1.8倍のグラフィックス性能と,同じワークロードで40%の消費電力削減を実現していると,ベンチマーク結果を示してアピールした。
 
Mali-T880は,Mali-T760に対して最大1.8倍のグラフィックス性能を実現し,40%の消費電力削減を実現した
Cortex-A
 
 ARM製のGPU IPコアを備える製品といえば,日本で見かけるのは比較的ローエンドのスマートフォンやタブレット端末が多いという印象を受けるかもしれない。だが,Steel氏によれば,「ARMは高性能のGPUを重視している」のだという。なぜなら,仮想現実(以下,VR)技術やディープラーニングといった,GPUの新たな活用分野が生まれているからだ。
 VRでGPUといえば,真っ先にVRゲームが頭に浮かぶだろう。しかしSteel氏は,VRはゲームだけではないとして,「工業分野や医療,教育といった幅広い分野に利用できる技術だ」と述べている。こうした汎用性や将来性を期待できるために,VR実現の鍵となる高性能GPUが重要になっているというわけだ。
 
ARMが高性能のGPUを重視する理由のひとつが,VRであるという
Cortex-A
 
 一方,ディープラーニングについてSteel氏は,「GPUはディープラーニングを実装するのに最も適したアーキテクチャを持っている」と述べる。ARMでは,ディープラーニングに関する研究開発を,2つの分野で進めていることを明らかにした。
 その1つは,ディープラーニングによる画像認識で,画像処理や画像認識を専門とする英国のベンチャー企業Cortexicaと組んで開発に取り組んでいるそうだ。現在は,既存のGPU IPコアである「Mali-T628」を使用し,OpenCLで画像認識処理の実装に取り組んでいるそうである。
 
ARMが取り組むディープラーニングの一例。英国のCortexicaと組んで画像認識を実装しているそうだ
Cortex-A
 
 もう1つは,ARM社内で研究しているもので,GPUを使ったディープラーニングにより,文字認識を行うというものだという。PSO2 RMT
 
ARM自身も,GPUを使ったディープラーニングによる文字認識の試みを行っている
Cortex-A
 
 モバイルデバイスのSoC(System-on-a-Chip)が搭載するGPUでディープラーニングというのは,かけ離れているのではないかと考える人もいるだろう。だが,スマートフォンはセンサーやカメラも内蔵しているので,これらと組み合わせてディープラーニングによる外界認識ができれば,大いに役立つのではないだろうか。実用化がいつ頃になるかは何ともいえないが,高性能なGPUがスマートフォンに搭載されるようになれば意外に早くディープラーニングを使ったアプリが登場してくるかもしれない。

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